よくいただくご質問で
「お酒をやめられないのですが、病院に行かなければいけませんか?」
というものがあります。
これに関して私なりの考えをお伝えしようと思います。
アルコール依存症者の入院治療後の断酒率は1年で34%、2年で20%とも言われています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jachn/22/2/22_15/_pdf
2年たつと8割の人が再飲酒してしまう。
これを高いとみるか低いとみるかは人それぞれ異なると思いますが、この数字自体にはあまり意味はないのかなと感じています。
私は病院での治療の意味は「お酒をやめられること」ではなく、「一旦リセットできる」ことにあると捉えているからです。
「病院」は「この先お酒を飲まなくなるようにしてくれる」場所ではなく、「今だけお酒を取り上げてくれる」場所なのだと思ってみてください。
それを知った上で、「活用したいという人は病院に行くといいのではないか」と、私は考えています。
病院での治療は
「今、あなたからお酒を取り上げますね。取り上げられているうちに、一旦冷静になって、体調も戻してくださいね。飲酒の害に関する情報も渡しますから、治療が終わって準備が整ったら、自分で禁酒にチャレンジしてみてください」
ということなのです。
そして、治療後に再び飲んでしまう理由は、「飲酒の原因となる問題は、治療では何も解決していないから」だったりします。
これは、お酒を取り上げて「健康」に近づけることが「保険診療」の目的だからです。
お酒をやめられない人は、何か生活の中の悩みや不安、心配事と飲酒が結びついているケースがほとんどです。
借金で悩んでいる、仕事で悩んでいる、恋愛で悩んでいる、将来への不安、心配事や悩みやストレスを自分ではどうしようもできなくて、紛らわすためにお酒に手を出してしまう。
例えば仕事のトラブルからのストレスで飲酒をしてしまうという人の場合、病院に行って禁酒の治療を受けても、健康には近づきますが仕事のトラブルは解消しません。
もちろん治療によって冷静になり、体調も戻るので、仕事のトラブルに対処できるようになることもあるでしょうが、仕事のトラブルが構造的に発生する問題だった場合は、病院の治療では解決できません。
「今の仕事が嫌でストレス」という人は、いくら禁酒の治療を受けようが、今の仕事が嫌なままなのです。
保険診療は、患者の体や心の健康が対象ですので、生活の中の個別のトラブルの解決は目的ではありません。
ですから、お酒を飲む原因が、生活の中での何かの悩みや不安である場合、病院では解決はしようがなく、またそれが解決しない限り再飲酒の機会は多くなります。
体調を整えたい、他人に飲酒を管理してもらいたいという人は、病院を活用しながらお酒をやめればいいと思います。
ですが、もしも「お酒をやめたい」という人が
「飲酒の原因となっているこの悩みをやめたい」
「飲酒の原因であるこの問題を解決したい」
という部分に行き着いた場合、それはもう「保険診療」の「治療」の対象にはなりにくいのです。
飲酒の原因となる悩みの解決には、「禁酒の治療」とは違う対処が必要なのです。
ですので
「お酒をやめられないのですが、病院に行かなければいけませんか?」
への回答は
『「病院はお酒を取り上げてくれる場所」
「病院は体調を整えるための場所」
それを知った上で、使えるならば活用する』
となります。
「お酒をやめたい」という想いには、一人一人様々な事情があるものです。
もしも、あなたが
「自分はお酒だけ飲まなくなれば、全ての問題が解決しそうだ」
と感じる場合には、病院での治療もとても有効だと思います。