「話を聞いただけで禁酒できた」は、なぜ起きるのか

 

有名人の禁酒講演会は、本当に効果があるのか?

禁酒をした有名人が、自らの壮絶な飲酒体験を語る講演会。
あなたも、テレビやネットで目にしたことがあるかもしれません。

ところが不思議なことに、
「何をやってもお酒をやめられなかった人」が、
そうした講演会を聴いただけで、しばらくすると禁酒できてしまうことがあります。

他人の体験談を聞いただけで、
あれほどやめられなかったお酒がやめられるなんて、
にわかには信じがたい話ですよね。

けれど、これは事実です。
効く人には、確かに効く。

今までどんな禁酒法もダメだった人が、
誰かの飲酒・禁酒体験を聴いただけで、
次の日から飲まなくなる。
実際に、そういうケースは存在します。

自助グループはなぜ効果があるのか?

アルコールの自助グループも同じです。

そこでは、
• 自分の飲酒・禁酒体験を話す
• 他人の飲酒・禁酒体験を聞く

基本的には、それだけを繰り返します。

「ただ独白して、他人の独白を聞くだけで、本当に意味があるのか?」
そう思う人も多いでしょう。

けれど、これもまた
一定数の人には、はっきりと効果があります。

定期的に通っている間は禁酒が続き、
やがて禁酒が「当たり前」になった頃には、
会に行かなくても飲まなくなる。

では、なぜ
話すだけ・聞くだけで、
あれほど難しかった禁酒が可能になるのでしょうか?

カギは「トランス状態」にある

この現象は、「トランス状態」という視点から説明できます。

トランス状態とは何か?

トランス状態とは、
目の前の物理的な現実ではないものを、現実として感じている状態のことです。

たとえば、
• 映画に没頭しているとき
• 小説の世界に入り込んでいるとき
• ゲームに夢中になっているとき

これらはすべてトランス状態です。

身体はここにあるのに、
意識は「別の世界」に入り込んでいる。
それがトランス状態です。

 

トランス状態の特徴

トランス状態には、非常に重要な特徴があります。

それは、信念が書き換わりやすくなること。

信念とは、その人の「基本ルール」です。
• 何が好きで、何が嫌いか
• 何を大事にするか
• どういうときに行動するか

こうした価値判断の大元になっているものです。

通常、この信念は簡単には変わりません。
コロコロ変わってしまうと、生存上危険だからです。

言い換えれば、
信念には強いロックがかかっている。

このロックが外れるのは、たとえば
• 健康を失った
• 家族や大切な人を失った
• 財産や信用を失った

といった、人生を揺るがす出来事が起きたときだけです。

 

飲酒もまた「信念」である

飲酒行動も、立派な信念です。
• 困ったら飲む
• ストレスがかかると体が欲する
• 飲めば楽になる

これは理性だけでなく、
身体レベルに刻み込まれたルールです。

だからこそ、理屈ではわかっていてもやめられない。

ところが、
トランス状態のあいだは、この信念のロックが外れ、変更できるようになります。

講演会で何が起きているのか?

有名人が語る飲酒体験は、
「過去の記憶」を臨場感たっぷりに再体験する行為です。

語っている本人は、強いトランス状態に入っています。
そして、その話に引き込まれた聴衆も、同じようにトランス状態になります。

これは、
• 落語家の語り
• 舞台役者の芝居

と同じ構造です。

演者が深いトランスに入り、
観客もその世界に没頭する。

禁酒の講演会では、
そのトランス状態の中で、
• 飲酒は人生を壊す
• 飲酒は利益にならない

というメッセージが伝えられます。

その結果、

「お酒を飲むと良いことがある」

という信念が、

「お酒は害になる」

という信念に書き換わる。

だから、急に禁酒ができるようになるのです。

自助グループも同じ構造

自助グループにも、
自然と人をトランス状態に導くのが上手な人がいます。
• その人の話を聞くだけで引き込まれる
• 自分が話すことで、さらにトランスが深まる

その状態で、飲酒に関する信念が書き換わる。

トランスが浅ければ、効果は一時的です。
数日で戻ってしまうこともあります。

しかし、話者が非常に上手い場合、
信念の書き換えは長期間持続します。

ここにある「危険性」

ただし、ここには大きな危険もあります。

禁酒の講演や自助グループでは、
「飲酒は不利益」という点で、
話し手と聞き手の利益は一致しています。

しかしもし、トランス状態の中で、
• この宗教を信じろ
• この壺を買え
• この商品を買え

といった情報が書き込まれたらどうでしょうか。

トランス状態では、
価値判断のロックが外れています。

それが自分にとって本当に有益かどうか、
冷静に判断できません。

極端に言えば、

カルト宗教の教祖や詐欺師のような、洗脳が得意な人が作るトランス状態によっても、禁酒はできてしまいます。

しかし、

お酒はやめられたけれど、人生が別の形で壊れた

ということも起こり得ます。

だから「自分でトランスを作る」

そこで重要になるのが、
他人にトランスを委ねないこと。

自分でトランス状態を作り、
その中で、
• 飲酒は自分にとって不利益
• 飲まない方が望む未来に近づく

という信念を、自分で書き込む。

そうすれば、
誰かに操られる危険はありません。

トランス状態は簡単に作れる

「トランスなんて難しそう」と思うかもしれませんが、
実はとても簡単です。

自分の体感に意識を向けるだけ。

一時期流行ったマインドフルネスも、
本質的にはトランス状態の生成です。

ただし、多くのマインドフルネスは
「トランスに入るだけ」で終わってしまい、
信念の書き換えまでは行いません。

トランス状態の中で、

「お酒は良いものではない」

と明確に書き込むことで、
飲酒に自然な抵抗が生まれ、
禁酒が可能になります。

禁酒後に直面すること

禁酒は、「お酒をやめること」で終わりではありません。

お酒をやめたあと、多くの人は気づきます。
お酒以外の部分にも、書き換えが必要な信念が残っていることに。

仕事、人間関係、お金、将来への不安。
ほとんどの人は、お酒とは別に、生活の中にさまざまな問題を抱えています。

もしそこで信念の書き換えが起きなければ、
「お酒はやめられたけれど、辛さや苦しさは何も変わらない」
という状態に陥ってしまいます。

トランス生成の技術は他の問題にも活用できる

だからこそ、まずはお酒の問題から始めてみてください。

トランス状態を生成しながら禁酒を達成する。
それは同時に、「信念を書き換える技術」を身につけることでもあります。

禁酒ができたら、その技術を、
長年抱えてきた別の問題の解決にも使っていく。

そうすることで、
お酒をやめることと、人生を切り開くことを
同じ技術で行えるようになります。

お酒をやめながら、毎日の生活も変えていける。
これが、新しい形の「お酒のやめ方」です。

※この記事は、noteにも掲載しています。


シン・お酒のやめ方: お酒をやめたその先へ

※本書は Kindle Unlimited 読み放題 対象タイトルです。

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