友人の主張はエキセントリックだと思いました。
でも、その主張の是非を問うより、私はとにかくお酒がやめたい。
「お前の言ってること信じたら、簡単に酒やめれるの?」
「ああ、簡単にやめれる。
どうする? 酒やめたくないならもう言わないけど」
私は続きを促します。
「俺は酒をやめてわかったことがある。
人生は酔わないほうが圧倒的に得なんだ。
これからは酒を飲まない人と行動を共にしていい。
そもそも酒を飲まない女を素面で口説く方が、成功率が高くて楽しい。
酒を飲まない友達の方が多趣味で博識で楽しい。
いいか、酒を飲めないのは決して寂しいことじゃない。
俺たちは飲んだ方が楽しいと思わされていただけだ。
実際は飲まない方が100倍楽しい。
仕事の付き合いで酒を飲まなくちゃ、とかも幻想だ。
飲みニケーションとか言ってくる奴は全員相手にするな。
強要してくる奴は全部ゴミだから切っても問題ない。
飲まないで関係を作れる人とだけ付き合えばいい。
バカをもっとバカにさせたいと望んでいる誰かがいるんだよ。
酒は素晴らしいと宣伝して酒を買わせているだけなんだよ。
金払って、時間と健康を失ってバカになるだけ。
酒が良いものというのは、全部洗脳だ。
これからは会社で嫌なことがあっても、帰ってから酒なんて飲まなくていい。
もし会社が悪いなら、素面で法律の勉強して裁判をするなりして戦った方がいい。
もし自分が悪いなら、勉強してスキルアップして見返すか転職すればいい。
これからは何か嬉しいことがあっても、酒なんか飲まなくていい。
すごく嬉しい時は、支えてくれた大切な人たちに感謝して、
その人たちにご馳走したりプレゼントをあげたりすればいい。
自分が嬉しくて酔っ払うより、周りの人を笑顔にした方がもっと嬉しいことが起きる。
どんな感情が沸いても、本来、酒は必要ないんだ」
私は思わず口にしてしまいます。
「俺、素面で女の子口説いたことない」
友人は答えます。
「酔わない方が頭が働くから、落とせる確率はかなり上がる。
今は酔わずに落とせる方法を知らなくても大丈夫だ。
素面で3回も場数踏めば適切なアプローチの仕方を学べる。
だいたい自分が泥酔して、さらに泥酔した女を口説くとか、
冷静に考えると非効率的だと思わないか?」
コーヒーを飲みながら聞いていると、なんだかだんだんそんな気もしてきます。
「酒を簡単にやめたいんだろ?
俺たちは悪い奴らに騙されて、酒を良いものと思わされ、飲まされてきたんだ。
酒は悪なんだ。
これからは知識をつけて、自分らしく生きることで、その巨悪と戦っていけ」
友人の主張は、まさかの酒陰謀論でした。
けれどそういう設定を信じるだけでお酒がやめれるなら、
安いものなのかもしれないです。
酒陰謀論を信じても、別にお金を取られるわけじゃないし、何か失うわけでもないし。
私は決めました。
その日から酒陰謀論で禁酒を始めました。